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私にとっては最重要事項で、田園都市線沿線から新しい引っ越し先を決める際には、同じ時間帯にいろいろな路線の電車に乗って、「座って勉強ができるかどうか。
立ったとしても本が読めるぐらいの余裕はあるか」について真剣に調べたぐらいだ。
一日往復八十分、一年間で三百二十時間。
貴重な時間である。
それぐらい準備しても損はないと思う。
「馬上・枕上・岡上」という言葉をご存じだろうか。
十一世紀の中国の政治家であり、学者・文人である欧陽惰が残した言葉で、物事を考えたり文章を練ったりするのは、馬上(馬の上)と枕上(枕の上)と岡上(トイレの便器の上)が一番適しているという意味だ。
この馬上・枕上・厩上の三つを合わせて「三上」という。
この三上の共通点は、何かの上に身体を乗せている状態であることと同時に、だれにも邪魔されない状態でもあるということだ。
一人になって何かをしようとしている(馬の上に乗って移動しようとしている、寝床に入って寝ようとしている、トイレで用を足そうとしている)状態でもある。
こういう状態のときに、人はもっとも心が解放され、発想が豊かになり、アイデアを思いつきゃすいということなのかもしれない。
現代でも枕上と周上は、物事を考える場所としては有効である。
私も自宅のトイレのなかには、たくさんの本や雑誌を置いている。
また馬の上に乗って移動する機会はいまではなくなったが、電車がその役割を果たしている。
電車のなかが私にとって貴重な勉強場所であることは、つい先ほど触れたとおりだ。
こうした物事を考えるのに適した環境は、ぜひ積極的に活用したいものだ。
さてこの三上に、もう三上をつけ加えるとしたら、私の場合はお風呂とエアロパイク、ラウンジチェアだろうか。
つまり、六上となる。
お風日では、温かめのお湯に半身浴で長時間浸かりながら、ひたすら本を読んでいるエアロバイクに乗るのはスポーツジムに行ったときのことで、ここでも私はペダルを酔いながら本を読んでいる。
体脂肪を燃やす効果があるドリンクを飲みながら、四十分ぐらい漕いでいるので、汗で本がびしょびしょになってしまうのだが、それでも読んでいる。
ラウンジチェアとは、シティホテルのロビーやラウンジにあるゆったりとしたチェアのことだ。
大切なのは、「トイレに入る」「電車に乗る」「エアロバイクにまたがる」というように、勉強をするのに最適な環境になったときに、すぐに勉強に入れるようにあらかじめ本や教材を用意しておくことだ。
気持ちをすぐに、勉強モードに切り替えることも大事。
慣れないうちはなかなか切り替えられないかもしれないが、「トイレH読書」を心がけているうちに、いずれ習慣化されていくものだ。
最適な環境を有効に使ってこそ、中身の濃い勉強が可能になる。
『純粋理性批判』などの著書で知られるイマヌエル・カントは、毎日決まった時間に決まった場所に散歩に出かけていたという。
あまりに時間がいつもピッタリなので、町の人たちはカント先生が散歩をしている姿を見て、時計の狂いを直したといわれている。
そのカントが敬愛していたジヤンHジヤツク・ルソーも、やはり散歩が好きな哲学者だった。
何しろ「孤独な散歩者の夢想』という著書があるぐらいだ。
日本ではやはり西田幾多郎だろう。
京都大学の教授だったころに彼が思索に耽りながら散策した道は、いまでは「哲学の道」と呼ばれるようになっている。
哲学者が歩くのを好んだのは、私にもわかる気がする。
というのも、私も歩きながら考えるのが大好きだからだ。
私のオフィスは、明治神宮前駅から徒歩一分のところにあるのだが、これだと歩きながらモノを考える時間としては短すぎる。
そこで「もう少しちゃんと考えたいな」というときには、わざと一駅手前の表参道駅で降りる。
表参道駅からだと、歩いて十二十三分ぐらいだ。
もっとじっくり考えたいときには、異なる路線の青山一丁目駅で降りることもある。
ここからだと四十分ぐらいだ。
一回だけだが四ツ谷駅で降りて、一時間十分かけてオフィスに戻ったこともあった。
なぜ歩くことが、考えることと結びつくのか。
まずは歩くこと自体が酸素を豊富に身体に取り入れることになるため、脳を活性化させることにつながる。
さらには外界からの情報が視覚に入ってくるため、やはりこれも脳の活性化にプラスになる。
景色を見ながら、「もうすっかり秋になって、木々が色づいてきたな」とか「こんな裏道にこんな店ができたのか」といったことをぼんやりと頭に浮かべながら物事を考えていると、凝り固まった思考がほぐされていく。
流れが止まっていた思考が、再び動き出す感じだ。
すると別々の情報と情報、知識と知識が結びついて、刺激を受け、新しい発想が生まれてくる。
散歩をしながら物事を考えていると、そんな体験をすることが多い。
私たちは忙しいときほど、散歩をするべきだ。
会社の帰り道は、「一駅前で降りて歩いて帰る」なんてこともいいだろう。
散歩は、健康にいいだけではなく、質の高い考えを生み出す行為、場となる。
私は若いころから、出張に行くときには新幹線は必ずグリーン車、ホテルはシティホテルを利用してきた。
「できるのは、コンサルタントの給料が高いからだろう。
普通のサラリーマンには無理だよ」と言われてしまいそうだが、私がコンサルタントになったばかりのころの給与はとても低かった。
グリーン車など、考えられないぐらいの給与でしかなかった。
が、たとえ自腹を切ってでも、経費限度を超えてでも、グリーン車とシティホテルにこだわってきた。
グリーン車と普通車、シティホテルとビジネスホテルでは、勉強できる環境として雰囲気がまるで異なるからだ。
新幹線の普通車でも、まだ朝の時間帯はこれからみんな出張先に向かうわけだから静かである。
資料に日を通している人もいれば、パソコンで作業をしている人もいるし、睡眠不足を補っている人もいる。
だから比較的自分も集中して、勉強に取り組むことができる。
ところが夕方から夜にかけての帰りの新幹線になると、車内の雰囲気はだいぶだらけたものとなる。
ビールを飲んでいる乗客の割合が増えるし、どこかでグループでの酒盛りがはじまることもある。
とても落ち着いて勉強できないし、「俺もピールを飲んじゃおうかな」という誘惑に駆られがちだ。
だから私は、まだ給料が高くないころから、新幹線はグリーン車と決めていた。
もちろんグリーン車でもお酒を飲んでいる乗客はいるが、静かに飲んでいる人が大半だ。
だから勉強に集中できる。
何よりグリーン車に乗ると、「わざわざ自腹を切ったのだから、一克を取らなければ損である」という意識が働く。
そのため非常に濃い時間を過ごすことができるのだ。
またグリーン車には、政治家や財界人、芸能人、Jリーガー、プロ野球選手、モデルなども乗っている。
若い人にとっては、彼らと同じ空間で時を過ごすだけでも刺激になるはずだ。
現在、東京駅から新大阪駅までの所要時間は、のぞみで約二時間四十分だが、考えてみればこれぐらい勉強や仕事に集中できる時間と空間はほかにない。
ケータイに電話がかかってくることはままあるが、それでも電話対応のために作業が細切れになる回数は職場にいるときよりも大幅に減るし、一人での出張なら周りの人から話しかけられる心配もなくなる。
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